title:アンフィオニイ批評4 ver.1.0j
木村応水 作
1996


『インターネット近未来講座』
坂本(龍一)−実は人間は、必要な知識がどこにあるか覚えていれば、
それでいいのですね。世界中のあらゆる知識を一つの脳の中にしまい込
む必要はない。それはクライアント/サーバーみたいな感じで、クライ
アントに全部ため込む必要はないわけです。どこに何があるかさえわかっ
ていればいい。極端に言えば、一つ疑問があるとき、誰に聞けばいいか、
どこに問い合わせればいいかが分かっていればいい。
 だから、欲しい情報がどこにあるか分かっていればいいという意味で
は‥‥そう、哲学科の学生は、文章をダウンロードしてきて何かを書く
必要もないわけです。このURL(ホームページのアドレス)がいい、
ここに答えがある、というのでもいいのかもしれませんね。
E 人文系の研究者は最後には何もやらなくなってしまう。
坂本−僕はそれでもいいような気がしています。
N 自動的にプログラミングして、切り貼りして終わり。
坂本−知識としてはそれでいいんですよ。
 重要なのは、情報と経験は違うということ。情報ならどこに何がある
か分かっていればいいのだけれど、やはり身になるのは体験です。いか
にカントの文献を網羅的に集めたところで、それは経験がなければ使え
ない情報です。
 カントの研究をしている学生がいたとして、彼がある日くだらない女
に引っかかって人生の痛みを味わったとする。そこで初めて、集めたカ
ントの文献のなかのある一筋が生きてくるかもしれないんですね。それ
が経験で、実はそういうことが大事なんだと思う。