『TFX EPISODE 5』のソースは、
『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』
ドナルド・F・グルート 著
石田亨 訳
竹書房文庫

p109-
 ルーク・スカイウォーカーのXウイング戦闘機のライトが闇に包まれ
た沼地を照らし出していた。愛機は澱んだ水に沈みかけていたが、機内
から生活必需品を取り出す時間は充分にあった。いずれは沈没してしま
うだろう。できるだけ多くの物資を運び出しておけば、それだけ長く生
きのびることができる。
 深い闇に覆われて一寸先も見えない。密林から枝の折れるような音が
聞こえると全身に鳥肌が立った。ルークはブラスターを引き抜くと、い
つでも撃てるように身構えた。しかし一向に襲いかかってくる気配がな
いので、武器をホルスターにしまって荷降ろしを続けた。
「燃料を補給するかい?」ルークはR2に呼びかけた。ドロイドは辛抱
強く充電のチャンスを待っていた。ルークは備品入れから小型発電炉を
取り出して点火した。ほのかな明りでもありがたかった。R2の鼻状の
突起にパワー・ケーブルを接続する。エネルギーが注ぎ込まれると、ず
んぐりしたドロイドはうれしげに電子音を鳴らした。
 ルークは腰を下ろすと加工食の容器を開けた。食事をしながらドロイ
ドに話しかける。「こんなところにジェダイ・マスターがいるとは思え
ない」ルークはR2にぼやいた。「ほんとうに気味の悪い惑星だ」
 ピーという音が聞こえた。R2もルークと同感らしい。
「でも」ルークは食事を口に押し込みながら続けた。「どこか懐かしい
気がする。なんとなく・・・」
「なんとなくどうした?」
 R2の声じゃない! ルークは飛び上がると、ブラスターを引き抜い
て振り返った。闇をすかして声の主を探す。
 すぐ目の前に小柄な生き物が立っていた。ルークはびっくりして飛び
退いた。どこからともなくふいに姿を現わした! 身長は50センチ足
らず、恐ろしげな武器を振りまわす若者を前にして平然としている。
 年齢は見当もつかなかった。顔じゅう皺だらけだが、幼児ほどの背丈
しかなく、尖った両耳は老いを感じさせない。長く伸ばした白髪を頭の
真ん中で分けて両側にたらしている。青みを帯びた肌。二足歩行だが、
脚は短く、つまさきは爬虫類のように三指にわかれていた。身にまとっ
たボロは霧と同じ灰色で、くたびれ具合から見て、実年齢に相当するも
のと思われた。
「武器をしまえ。わしは敵ではない」
 ルークはためらいがちにブラスターをしまった。どうして相手の言い
なりになるのか自分でも不思議だった。
「どうして」異星人はふたたび口を開いた。「ここへ?」
「人を探すためだ」ルークはこたえた。
「人探し? 人探し?」異星人は皺だらけの顔をほころばせると楽しげ
にくり返した。「もう見つけ出したではないか。な? そうじゃろ!」
 ルークは笑いを噛み殺した。「まあね」
「ひとつ手伝ってやろう・・・よいな・・・よいな」
 どういうわけか奇妙な異星人を信用しはじめていたが、とても助けに
なるとは思えなかった。
「遠慮するよ」ルークはやんわりと断わった。「ぼくは偉大な戦士を探
しているんだ」
「偉大な戦士?」異星人は首を振った。白髪が尖った耳にかかる。「い
くさなんぞするやつが偉いものか」
 変なやつ。しかし返事をする間もなく、小柄な異星人は積み上げた荷
物に飛び乗った。そしてルークの命綱ともいえる大切な物資を勝手にか
きまわした。
「さわるな」ルークは相手の奇妙な行動にショックを受けた。
 R2は荷物に近づくと視覚センサーを異星人に向けた。そして相手の
不作法を非難するかのように鋭い電子音を発した。
「こら、それはぼくの夕食だぞ!」ルークは大声を上げた。
 しかし異星人は加工食をかじったとたん、まずそうに吐き出した。皺
だらけの顔にさらに皺がより、まるでしぼんだプルーンのようだ。「ウ
ヘッ!」残りかすを吐き捨てながら言う。「ひどい味じゃ。こんなもの
を食ってよくそんなに大きくなれたな?」異星人は若者を頭のてっぺん
から足の先までじろじろ見まわした。
 異星人は唖然としているルークに加工食の容器を投げ返すと、別の荷
物に小さな手を突っ込んだ。
「そもそも」ルークは奇妙な訪問者に話しかけた。「こんなところに着
陸するつもりはなかったんだ。沼から機体を引っぱり上げたいけど、と
ても無理だから・・・」
「無理じゃと? やってみたのか? 一度でも試してみたのか?」異星
人ははやし立てた。
 言われてみればそのとおりだが、引っぱり上げようという発想自体バ
カげている。装備もないのにどうやって・・・。
 興味を引くものがあったらしく、異星人はそれをつかみ上げた。ルー
クの我慢はとうとう限界に達した。彼の命はこの生活物資にかかってい
るのだ。ルークは奪い返そうとしたが、異星人は戦利品を手放そうとし
ない。青みがかった手に握られているのは小型パワー・ランプだった。
小さな明りが異星人のうれしげな顔を照らし出した。もの珍しそうにい
じりまわしている。
「それを返せ!」ルークは怒鳴った。
 異星人はすねた子供よろしくあとずさる。「わしにくれ! わしにく
れ! さもないと助けてやらんぞ」
 小型ランプを胸に抱き締めたままあとずさった異星人は、うっかりR
2・D2にぶつかってしまった。異星人はドロイドが動くことを忘れた
のか、そのかたわらに立ち止まった。
「おまえの助けなんかいらないよ」ルークは憤然として言った。「ラン
プを返せ。この薄汚ない泥沼で暮らすためにはぜひとも必要なんだ」
 ルークはすぐに相手を侮辱したことに気づいた。
「泥沼! 薄汚い! ここはわしの家だぞ!」
 R2はすこしずつ作業アームを伸ばした。そしていきなり小型ランプ
をつかんだ。小柄な両者のあいだでたちまち激しい争奪戦がはじまった。
R2は「それをよこせ」とばかりに電子音を鳴らした。
「わしのじゃ、わしのじゃ。返さぬか」異星人は声を張り上げた。しか
しふいにもみあいをやめると、青みがかった指先でドロイドを軽くつつ
いた。
 R2はびっくりしたらしく大きな電子音を鳴らすと、パワー・ランプ
を手放した。
 小柄な勝者は明るく輝くランプをにこにこしながら見詰めると、うれ
しそうにくり返した。
「わしのじゃ、わしのじゃ」
 ルークはさすがにバカらしくなって、ドロイドに争いをやめるよう命
じた。「もういいよ、R2、くれてやれ」ため息まじりに言う。「なあ、
そろそろ帰ってくれないか。ぼくたちは仕事があるんだ」
「そうはいかん!」異星人は興奮もあらわに言い立てた。「おまえさん
の友だち探しを手伝う約束じゃ」
「友だちじゃない」とルーク。「ジェダイ・マスターを探しているんだ」
「ほう」異星人は眼を見開いた。「ジェダイ・マスターを。つまりヨー
ダを探しておるのか、ヨーダを」
 ルークはヨーダの名を言われてびっくりしたが、同時に疑念を抱いた。
この妖精じみた惑星人がどうしてジェダイ騎士の偉大な師のことなんか
知っているんだ? 「ヨーダと知り合いなのか?」
「もちろん」異星人は誇らしげにこたえた。「わしが案内してやろうか。
だがそのまえに食事じゃ。うまい料理を食わせてやるぞ。ついて来い」
 異星人はそう言うと闇のなかへそそくさと姿を消した。手にしたラン
プの明りがしだいに遠ざかってゆく。ルークはすっかり面食らって突っ
立っていた。ついて行くつもりなどなかったのに、気づくと異星人のあ
とを追って走り出していた。
 ルークの耳に絶叫を思わせるR2の電子音が聞こえた。振り返ると発
電炉のそばに心細そうに立つ小型ドロイドの姿が見えた。
「荷物の番を頼むぞ」ルークはドロイドに命じた。
 しかしR2はあらゆる音域の電子音を駆使してますます騒ぎ立てた。
「R2、落ち着け」ルークはドロイドをなだめた。「心配するな。ぼく
なら大丈夫だ。わかったな?」
 密林にわけ入るにつれてR2の不満そうな電子音は遠ざかっていった。
おれは頭がおかしくなったのだろうか、あんなへんちくりんな相手を信
じるなんて。しかしあの異星人ははっきりとヨーダの名を口にしたのだ
し、ジェダイ・マスターを見つけ出すためならどんな助力でもありがた
かった。ルークは鬱蒼と生い茂る下草や木の根っこに蹴つまずきながら、
ちらちら瞬く明りのあとを追いかけた。
 謎の異星人は楽しげにしゃべりながら闇のなかを進んだ。「心配はい
らん・・・これほど安全な場所があろうか・・・そうとも」そして何が
おかしいのかふいに笑い声を上げた。

p125-
 ダース・ヴェイダーに畏怖の念を抱かせる唯一の存在。シスの暗黒卿
は、薄暗い自室でただ一人、恐るべき支配者を待ち受けた。
 インペリアル・スター・デストロイヤーはすでに小惑星帯の外へ出て
いた。ダース・ヴェイダーの部屋を訪れようとする乗員はさすがに一人
もいない。もし押しかけていたら、黒ずくめの体がかすかに震えている
ことに気づいたかもしれない。そして黒い呼吸装置をすかしてその素顔
を見ることができたら、畏れの色が浮かんでいることに気づいたことだ
ろう。
 しかしだれ一人近づく者はおらず、ダース・ヴェイダーは見じろぎも
せずじっと待ち続けた。やがて奇妙な電子音が静寂を破り、ほのかな光
が暗黒卿の長衣を照らし出した。ヴェイダーは間髪を置かず深々と一礼
した。
 ダース・ヴェイダーの眼前に巨大なホログラム像が浮かんでいた。質
素な長衣を身にまとい、顔をすっぽりフードで覆った立体画像。
 銀河皇帝はヴェイダーよりずっと低い声で話しはじめた。面と向かう
だけでも気後れする相手から呼びかけられて、暗黒卿は全身をわななか
せた。「顔を上げてもよいぞ、わが下僕」皇帝は命じた。
 ダース・ヴェイダーはすかさず直立不動の姿勢にもどった。しかし皇
帝と目を合わす勇気はなく、足もとの黒いブーツを見詰めた。
「ご用件を聞かせください、陛下」ヴェイダーは神に仕える司祭のごと
くうやうやしく問いかけた。
「フォースに重大な乱れが生じておる」皇帝は告げた。
「承知しております」暗黒卿はおごそかな口調でこたえた。
 皇帝は重ねて危機を指摘した。「事態は急を告げておる。われらを打
ち滅ぼさんと新たな敵が姿を現わした」
「新たな敵? 何者ですか?」
「スカイウォーカーの息子だ。ただちに殺せ。さもないと災いの種とな
ろう」
 スカイウォーカー!
 まさか。相手は取るに足りぬ若造、皇帝の思い過ごしではないのか?
「あやつはジェダイどころか」ダース・ヴェイダーは異議を唱えた。
「ただの青二才にすぎません。オビ=ワンの教えも中断して・・・・」
 皇帝は口をはさんだ。「強力なフォースの持ち主だ。生かしておくわ
けにはいかぬ」
 シスの暗黒卿はしばらく考え込んだ。ほかにも手段はあるはずだ・・
・帝国のためになる方法が。「うまく取り込むことができれば、頼もし
い味方となりましょう」ヴェイダーは提言した。
「うむ・・・なるほど」やがて意味ありげに問い質した。「たしかに心
強い味方となろう。しかしおとなしく言うことを聞くかな?」
 ダース・ヴェイダーは初めて面を上げると皇帝の顔を直視した。「聞
かせてみせます」きっぱりと断言する。「耳を貸さぬ場合は殺すだけで
す、陛下」
 こうして両者の話し合いは終わった。暗黒卿がひざまずくと、銀河皇
帝は片手を上げてこれにこたえた。その直後、ホログラム像は消滅した。
ダース・ヴェイダーは一人になるとさっそく策略をめぐらせはじめた。

p133-
 ルークは息を切らしながら持久力テストに耐えた。ジェダイ・マスタ
ーは若者に密林一周マラソンを命じた。しかも新弟子をただ走らせるだ
けでは飽き足らず、ヨーダはみずから付き添っていた。汗みどろになっ
て道なき道を走り続けるジェダイ訓練生。小柄なジェダイ・マスターは
その背中におぼさって、修行の進み具合を観察した。
 ヨーダは首を振りながら辛抱の足りない若者を胸のうちでくさした。
R2・D2の待ち受ける空地へたどり着くころ、ルークの疲労は極限に
達していた。しかし訓練はまだ終わったわけではなかった。
 ヨーダは息つく間もあたえず、ルークの眼前に金属棒を放り投げた。
若者はすかさず振り出した光刃を一閃させたが、一瞬遅く、かすりもし
なかった・・・金属棒はそのまま地面にドスンと落ちた。ルークは湿っ
ぽい地面にくたくたと倒れ込んだ。「疲れがひどくて・・・」うめくよ
うに言う。「とても無理です」
 ヨーダはそっけなく決めつけた。「ジェダイなら7個に切断して当然
だ」
 しかしルークはまだジェダイではない・・・いまのところは。それに
過酷な訓練で消耗しきっていた。「体調さえ万全なら」若者はあえぎな
がら言った。
「なにを基準に判断しておるのだ?」小柄な指導者は容赦なく叱りつけ
た。「いままでの尺度はいっさい忘れろ。頭をからっぽにするのじゃ、
よいな!」
 ルークは既得の価値基準をすべて捨て去り、ジェダイ・マスターの教
えを一から学びなおす決心をかためた。きびしい修行を積むうちにルー
クは心身ともにたくましくなり、うたぐり深い師もしだいに希望を抱き
はじめた。しかしまだまだ前途は多難だった。
 ヨーダは時間をかけてジェダイたる者の務めを説いた。ルークはヨー
ダの自宅近くの木陰に腰を下ろして、師の教えに耳を傾けた。小柄なジ
ェダイ・マスターはときおり、先端が三つに枝分かれしたジャイマー・
スティックを噛み締めた。
 肉体の鍛練は多岐にわたった。とくに跳躍訓練には熱を入れた。ある
とき上達ぶりを師匠に披露する機会がめぐってきた。ヨーダが岸辺の丸
太に腰掛けていると、ガサガサと音がして対岸の樹木が揺れた。
 姿を現わしたのはルークだった。若者は沼めがけて走りよると、勢い
をつけてジャンプした。高々と宙を飛びヨーダのかたわらに着地するつ
もりだったのだが、わずかに距離が足りず水面に落下した。ルークは派
手な水しぶきを上げて、ジェダイ・マスターをずぶぬれにしてしまった。
 ヨーダは失望もあらわに青みがかった唇をゆがめた。
 しかしルークはあきらめなかった。どんなに馬鹿らしく思えても、与
えられた試練をことごとく乗り越えて、一人前のジェダイになるつもり
でいた。だから逆立ちを命じられても文句を言わなかった。はじめこそ
少々ぎこちなく、よろけたりしたが、すぐに両腕でしっかりと体を支え
られるようになった。修行の賜物だろう、逆立ちのまま数時間をすごし
ても、さほど苦痛をおぼえなかった。ルークの上達ぶりはめざましく、
ヨーダを足の裏に乗せても、微動だにしなかった。
 しかしこれはほんの手始めにすぎない。ヨーダはジャイマー・スティ
ックで若者の脚を軽く叩いた。ルークは細心の注意を払いながら、いっ
ぽうの手を地面から離した。かすかに体が揺らいだが、バランスが大き
く崩れることはなく、続けて目の前の石塊を持ち上げた。そこへR2が
けたたましく電子音を響かせながら駆けよってきた。
 引っくり返る弟子を尻目に、ヨーダはふわりと宙に浮かんだ。若きジ
ェダイ訓練生はいぶかしげに尋ねた。「びっくりさせるなよ、R2、ど
うした?」
 R2・D2は同じところをぐるぐるまわりながら、立て続けに電子音
を鳴らした。そして沼地へ向かった。すぐさまあとを追ったルークは、
小型ドロイドが何を伝えようとしていたか一目で理解した。
 Xウイング戦闘機は機首の先端部分を残して水面下にすっかり沈んで
いた。
「ああ」ルークはうめくように言った。「もうだめだ」
 ヨーダはルークのかたわらに立つと苛立たしげに足を踏み鳴らした。
「なぜそう決めつけるのだ?」弟子を叱りつける。「試してみたのか?
おまえはいつもそうだ。いままで何を聞いておった?」ジェダイ・マス
ターは皺くちゃの顔に怒りの色を浮かべた。
 ルークはちらっとヨーダを振り返ると、水没した愛機に視線をもどし
た。
「マスター」ルークは反論した。「石を持ち上げるのとはわけが違いま
す」
 ヨーダは本当に怒り出した。「たわけ! 違いなどあるものか!」弟
子を怒鳴りつける。「おまえが違うと思っておるだけだ。そのような思
い込みは捨てろ! 百害あって一利なしじゃ」
 ルークはヨーダを信じていた。師ができると言うのだ。ひょっとした
ら可能かもしれない。ルークは水面下に沈んだXウイング戦闘機を見詰
めると気を引き締めた。「わかりました。やってみます」
 また間違ったことを言ったようだ。ヨーダの大喝が飛んだ。「迷いを
捨てろ。やるときは思い切ってやれ、及び腰ではだめじゃ」
 ルークは眼を閉じた。Xウイング戦闘機の輪郭を思い描き、その重量
を感じ取る。そして、澱んだ水から出てこいと一心に念じた。
 水面がごぼごぼと泡立ち、機首部分が浮かび上がってきた。機体の一
部が水面に顔をのぞかせたのも束の間、しぶきを上げてふたたび水中に
没した。
 ルークは苦しそうに息をはずませた。「大きすぎて」元気なく言う。
「手に負えません」
「大きさは関係ない」ヨーダは断言した。「わしを見ろ。背丈でわしの
力量が計れるか?」
 ルークは黙って首を振った。
「外見に惑わされてはならぬ」ジェダイ・マスターはさとすように言っ
た。「フォースを味方につけるのじゃ。これほど心強い味方はおらぬ。
生命がフォースを生み出し、フォースを育てる。フォースはわれらを包
み込み、われらを結びつける。われらは光り輝ける存在となって、個々
の肉体を超越する」ヨーダはルークの皮膚をつねった。
 ヨーダは両手を大きくひろげて無限ともいえる宇宙を表現してみせた。
「フォースを感じ取れ。フォースの流れに身をゆだねるのじゃ」説明し
ながら指さす。「おまえとわし、あの木と石塊のあいだにもフォースは
満ちておる」
 R2はドーム形の頭部を回転させてフォースなるものを感知しようと
したが、もちろん無駄な努力に終わった。小型ドロイドは不満そうに電
子音を鳴らした。
「フォースはこの世界にあまねく存在して」ヨーダは小型ドロイドを無
視して続けた。「使われるのを待っておる。もちろんこの岸辺とあの宇
宙艇のあいだにも存在しておるのじゃ!」
 ヨーダは振り返って沼を見据えた。水面がごぼごぼと泡立ち渦を巻き
はじめた。やがて水中から機首を上に向けて戦闘機が浮かび上がった。
 ルークは息を呑んで見守った。Xウイング戦闘機は水の墓場をあとに
して、悠然と岸辺に向かってきた。
 もう二度と“不可能”という言葉は使うまい、ルークは内心かたく誓
った。小柄なヨーダは木の根を踏み台にして、Xウイング戦闘機を難な
く岸辺に運んでみせた。信じがたい光景だった。ジェダイ騎士の実力を
まざまざと見せつけられる思いがした。
 R2もびっくりしたらしく、ピーピーと電子音を鳴らしながら、巨大
な根っこの陰にあわてて隠れた。
 Xウイング戦闘機は岸辺にふわりと舞い下りた。
 ルークはすっかり恐れ入ってヨーダに歩みよった。「とても・・・」
口ごもりながら切り出す。
「信じられません」
「だから」ヨーダは一喝した。「しくじるのじゃ」
 ルークは声もなく首を振った。こんなざまでジェダイになれるだろう
か。

p146-
 二個の球体がホタルのように発光しながら、泥土に横たわるルークを
見下ろしていた。円筒形の小型ドロイドは倒れた主人をかばって、とき
おり作業用アームを伸ばすと、浮遊する球体を蚊のように追い払った。
しかし発光体はドロイドの攻撃を軽々とかわした。
 R2・D2はルークの目を覚まそうとピーピーと呼びかけた。しかし
若者は球体の電撃を浴びて失神したままだ。ドロイドは、切り株に腰掛
けたヨーダを振り返ると、小柄なジェダイ・マスターを叱りつけるよう
に怒りのこもった電子音を響かせた。
 ヨーダから同情を引き出せそうもないので、R2はふたたびルークに
向き直った。いくら電子音を響かせても、ルークの意識を取り戻すこと
はできない。そこで救急システムを作動させることにした。R2は若者
の胸部に小型電極を押しあてると、心配そうに電子音を鳴らしながら、
低圧電流を流し込んだ。胸が激しく上下して、ルークはたちどころに目
を覚ました。
 ジェダイ訓練生はぼんやりした表情で首を振った。あたりを見まわし
ながら肩をさする。シーカー・ボールの攻撃を受けた箇所だ。ルークは
頭上のシーカーに気づくと顔をしかめた。楽しそうにくすくす笑う声が
聞こえた。若者は振り返るとヨーダを睨みつけた。
「集中せよ!」ヨーダは皺だらけの顔をほころばせた。「集中するのじ
ゃ!」
 ルークは笑顔を見せる気分ではなかった。「あのシーカーは失神モー
ドにセットされていたんですね!」非難がましく声を張り上げる。
「そのとおりじゃ」ヨーダは楽しそうにこたえた。
「あんな強烈なのは初めてだ」ルークの肩はひどく痛んだ。
「フォースを味方にしておれば問題ないはずじゃ」ヨーダはさとすよう
に言った。「もっと高く跳べ! もっとすばやく動け!」大声で命じる。
「フォースに身をゆだねるのだ」
 まだ始まったばかりだというのに、ルークは修行のつらさに音を上げ
はじめていた。何度もフォースの本質をつかんだと実感しては・・・そ
のたびに錯覚だと思い知らされた。ルークはヨーダに喝を入れられて勢
いよく立ち上がった。失敗ばかり続くのでいいかげんうんざりしていた。
いつになったらあのパワーが身につくのか。ヨーダの謎めいた教え方に
苛立ちはつのるばかりだ。
 ルークは泥の中からライトセーバーを拾い上げると、すかさず光刃を
振り出した。
 R2・D2はあわててうしろにさがった。
「フォースを感じるぞ!」ルークは叫んだ。「今度こそ間違いない。さ
あ来い、こざかしい浮動ブラスターめ!」若者は眼を爛々と輝かせなが
らシーカーに襲いかかった。二個球体はすばやくヨーダのもとへ引き返
した。
「いかん、いかん」ジェダイ・マスターは白髪頭をふりながら叱りつけ
た。「おまえの感じておるのは怒りだ。それではいかん」
「でも確かにフォースを感じるのです!」ルークはいきり立った。
「怒り、恐怖、攻撃性!」ヨーダはきびしくたしなめた。「これらはフォ
ースの暗黒面を呼び起こす。怒りにまかせて戦うなどもってのほか。く
れぐれも用心せよ。暗黒面のパワーに手をつけたら、その代償は大きい
ぞ」
 ルークは光剣を下ろすと、いぶかしげにヨーダを見詰めた。「代償?
どういう意味ですか?」
「暗黒面は絶えずつけ入る隙をうかがっておる」ヨーダは芝居がかった
調子で言った。「ひとたび暗黒の道に足を踏み入れたら、永遠に抜け出
すことはできぬ。骨の髄までしゃびりつくされるぞ・・・オビ=ワンの
弟子のように」
 ルークはうなずいた。だれのことかすぐにわかった。「ヴェイダー卿
ですね」ルークはしばらく考え込んでから尋ねた。「暗黒面のパワーは
強力なのですか?」
「いいや。しかし安易で誘惑に満ちており、たやすく手に入る」
「でもどうやって見分ければいいのですか?」ルークは首をひねった。
「心が平穏であれば」ヨーダはこともなげにこたえた。「おのずとわか
る。ジェダイにとってフォースは知覚の手段だ。間違っても攻撃の道具
ではない」
「だったらなぜ・・・」ルークは口を開きかけた。
「うるさい! これ以上訊いても無駄じゃ。もはや話すことはない。雑
念を振り払い、心の平安を保つのじゃ・・・」
ヨーダはつぶやくように言った。「それでよい」
 ゆっくり目を閉じて雑念を追い払う。
「身をゆだねよ・・・」
 ヨーダのなだめるような声を聞くうちにルークは無我の境地に達した。
師の言葉がなんのこだわりもなく耳に入る。
「自我を解き放て・・・」
 弟子の態勢が整ったのを見届けたヨーダは、かすかに身じろぎした。
すると二個のシーカー・ボールがいきなりルークに襲いかかった。
 若者はすぐさま光刃を振り出した。立ち上がりざま光弾をはね返す。
身のこなしも軽やかに恐れることなく攻撃に立ち向かう。光弾を迎え撃
つべく高々と跳び上がった。いままでにない跳躍である。無駄な動きは
一つもなかった。
 シーカーの攻撃は始まったとき同様、ふいに終わった。光り輝く球体
はジェダイ・マスターのもとへ引き返した。
 辛抱強く見守っていたR2・D2は、ため息を思わせる電子音をもら
すと、やれやれとばかりにドーム形の頭部を回転させた。
 ルークは満面に笑みを浮かべてヨーダを振り返った。
「その調子だ」ジェダイ・マスターは認めた。「ずっと強くなった」し
かしそれ以上褒めようとはしなかった。
 若者は意気揚々と称賛の言葉を待ち続けたが、ヨーダはそれっきり口
をつぐんだ。泰然と腰を下ろすジェダイ・マスター・・・その背後から
新手のシーカー・ボールが二個浮かび上がり、最初の二個と一緒になっ
た。
 ルーク・スカイウォーカーの顔から笑みが消えた。

p155-
 ルークは自分の成長を実感した。
 若者はヨーダを肩に乗せて密林を駆け抜けた。鬱蒼と生い茂る灌木や
盛り上がった木の根っこをカモシカのように軽々と跳び越える。
 もはや得意満面になることもなく、平然とフォースの流れを受け止め
ていた。
 小柄な教官が銀色の金属棒を放り上げると、ルークはすかさず反応し
た。金属棒は四つに切断されて地面に落ちた。
 ヨーダは若者の早業に満足して微笑んだ。「4個か! フォースのお
かげじゃな」
 しかしルークの心は突然かき乱された。邪悪で危険な存在を嗅ぎつけ
たのだ。「よからぬ気配がします」ルークはヨーダに告げた。「危険と
・・・死の匂い」
 強烈なオーラの発生源を突き止めるべく周囲を見まわす。ねじくれた
巨木が目に入った。黒ずんだ樹皮は乾ききって、いまにもぼろぼろに崩
れ落ちそうだ。小さな沼に取り囲まれた根元・・・巨大な根がもつれあ
って不気味な洞穴を形づくっている。
 ルークはヨーダをそっと地面に下ろした。ジェダイ訓練生は立ちすく
んだまま奇怪な巨木を見詰めた。息遣いが激しくなり、声が出なくなっ
た。
「わざとここへ連れてきたんですね」ルークはようやく口をひらいた。
 ヨーダはねじ曲がった木の根に腰掛けてジャイマー・スティックを頬
張った。穏やかに若者を見詰めるばかりで、一言も口をきかない。
 ルークは身を震わせた。「寒気がする」依然として巨木を見詰めたま
まだ。
「この木には邪悪なパワーが満ち満ちておる。暗黒面の巣窟なのだ。あ
のなかへ入るがよい」
 全身が粟立つ思いだ。「あのなかに何があるのですか?」
「おまえが持ち込むものだ」ヨーダのこたえは謎めいていた。
 ルークは師の顔を探るように見詰めたが、あきらめて巨木に目を転じ
た。勇気を奮い起こして試練に立ち向かう覚悟を決める。何が待ち受け
ているにせよ、正面からぶつかるだけだ。わが身一つで飛び込もう・・・。
 いや待て。ライトセーバーが必要だ。
 ルークは光刃を振り出すと浅い沼を横切り、不吉な洞穴へと向かった。
 しかしジェダイ・マスターに呼び止められた。
「武器は」ヨーダは叱りつけた。「置いてゆけ」
 ルークは立ち止まったまま巨木を見詰めた。丸腰であんな物騒なとこ
ろへ踏み込めるだろうか? たしかに力をつけてきたが、今度ばかりは
自信がなかった。ルークはライトセーバーを握り締めて首をふった。
 ヨーダは肩をすくめると、静かにジャイマー・スティックをしゃぶり
はじめた。
 ルークは大きく息を吸うと、奇怪な洞穴におそるおそる足を踏み入れ
た。
 息苦しくなるほど濃密な闇がたれ込めており、明るく輝く光刃でも1
メートル先を照らしだすのがやっとだ。ルークはゆっくり歩き出した。
ぬるぬるしたものが顔をかすめ、足もとから湿気が這い上がってくる。
 しだいに目が慣れてきた。横穴がずっと続いている。そのまま進んだ
ルークは、ねばねばした粘膜状の物体に頭から突っ込んでしまった。巨
大な蜘蛛の糸が全身に巻きついたような感じだ。ルークはライトセーバ
ーで絡みついたねばねばを切り払うと、前進を続けた。
 道幅がひろくなったようだ。ルークは闇に目を凝らし耳を澄ませた。
しかし物音はまったく聞こえない。死のごとき静寂。
 突然シューシューという音が闇を震わせた。
 忘れようもない音。若者は立ちすくんだ。悪夢にも現われ、ルークを
悩ませた音。かつては人間だった怪物の苦しげな息遣い。
 一条の光りが闇を切り裂いた・・・青白く輝く光刃が振り出されたの
だ。行く手にダース・ヴェイダーが立ちはだかっていた。暗黒卿はライ
トセーバーを振りかぶると若者に襲いかかった。
 ルークは鍛え抜かれたジェダイ訓練生らしくすかさず反応した。みず
からもライトセーバーを振りかぶってヴェイダーの一撃を払いのける。
そして相手に向き直ると、心身の集中力を高めてフォースの流れを呼び
込んだ。勢いづいたルークは、暗黒卿の首筋に必殺の一撃を打ち込んだ。
 ルークのライトセーバーはものの見事にダース・ヴェイダーの首を刎
ね飛ばした。ヘルメットをかぶった頭部が地面に転がり落ちて大きな音
を立てる。首から下はたちまち闇に呑み込まれて見えなくなった。ルー
クは足もとにころがってきた頭部を見下ろした。じっと見詰めていると、
いきなりヘルメットがまっぷたつに割れた。
 ルークは思わず目を疑った。現われたのはダース・ヴェイダーの素顔
ではなく、自分の顔だった。
 衝撃のあまり息が詰まった。やがて切断された首は煙のように消え失
せた。
 ルークはついさっきまで首が転がっていた場所を睨みつけた。頭がく
らくらして、まともにものを考えることができない。
 巨木のせいだ! この洞穴は幻影を生み出す。ヨーダの言った意味が
ようやくわかった。ライトセーバーを持ち込んだからこそ、あのような
幻を見たのだ。
 自分の幻影と闘ったのだろうか。おれは暗黒面の誘惑に負けてしまっ
たのか。ひょっとしたらダース・ヴェイダーのようになっていたかもし
れない。ジェダイ訓練生は頭を抱えた。あの幻影にはもっと恐るべき意
味が隠されているのかもしれない。
 ルーク・スカイウォーカーはなかなかその場を動くことができなかっ
た。
 弟子を待つあいだ、小柄なジェダイ・マスターは木の根に腰掛けて、
黙々とジャイマースティックを噛みしめていた。

p167-
 ルークの心は平静そのものだった。このように逆立ちをしていても、
修行をはじめたころと違って不安や緊張といったマイナスの感情に悩ま
されることはない。片手でみごとにバランスを取るジェダイ訓練生は、
フォースの存在を実感していた。
 辛抱強い師ヨーダは弟子の足の裏に腰掛けていた。ルークは集中力を
途切らすことなく、4本の指を地面から一気に離した。それでも姿勢は
みじんも揺るがず・・・若者は親指一本で立ってみせた。
 確固たる決意が上達を早めた。ルークは師から与えられた難題に臆す
ることなく取り組んだ。いまでは一人前のジェダイ騎士になれる自信が
あった。この惑星を離れるころには正義のために闘う力を身につけてい
ることだろう。
 ルークのフォースは日ましに強まり、つぎつぎと奇跡をなしとげた。
ヨーダは愛弟子の上達ぶりに目を細めた。いちどヨーダが見守るまえで、
大型備品ケースを持ち上げたことがあった。ジェダイ・マスターは感心
したが、R2・D2は不可解きわまりない現象に首をひねり、いぶかし
げに電子音を発した。ヨーダは片手を上げると小型ドロイドを宙に持ち
上げた。
 あわてたR2はセンサーを総動員して不可思議なパワーの探知に取り
かかった。見えざる手はいたずらを続けた。小型ドロイドは空中に浮か
んだまま逆立ちをさせられた。白い脚をばたつかせながらドーム形の頭
部を回転させる。ヨーダは備品ケースとともにR2を下降させた。二個
のケースはそのまま地上に激突したが、R2は、片手を伸ばしている若
者に気づいた。ルークが致命的な墜落を防いでくれたのだ。
 ジェダイ・マスターは弟子のとっさの判断と機敏な反応に感心して首
を振った。
 ヨーダがルークの腕に飛びつくと、師弟はそろって自宅へ引き返した。
しかし忘れ物があった。宙に浮かんだままのR2・D2は、ピーピーと
必死になって呼びかけた。これもヨーダのいたずらだった。ジェダイ・
マスターの鈴のような笑い声が響きわたると、小型ドロイドはゆっくり
地上に舞い下りた。

p168-
 その数時間後、夕闇が鬱蒼たる密林を包み込むころ、R2はXウイン
グ戦闘機の清掃作業に取りかかった。ボディに内臓したホースで沼の水
を汲み上げて、勢いよく機体に浴びせかける。いっぽうルークとヨーダ
は空き地に腰を下ろしていた。ルークは両眼を閉じて集中力を高めた。
「心を静めて」ヨーダは弟子に命じた。「フォースに身をゆだねるのじゃ。
そうすれば、さまざまなものが見えはじめる・・・遠くはなれた場所、
過去の出来事、未来の出来事、いまは亡き友人、他人の思い」
 ルークは師の言葉にじっと耳を傾けた。肉体の存在を忘れて心を遊ば
せる。
「イメージが洪水のように押しよせてきます」
「その中から必要なものだけを選び取るのじゃ」ジェダイ・マスターは
命じた。「あわてず、じっくりとな」
 ルークは目を閉じたまま体の力を抜き、心を自由に遊ばせた。ついに
ぼんやりとではあるが、ふわふわした白い物体が見えた。イメージがし
だいに鮮明になる。都市だろうか。白く渦巻く雲海に浮かぶ空中都市。
「雲間に都市が見えます」
「ベスピンじゃな」ヨーダは、即座に断定した。「わしにも見えるぞ。
友だちがおるのではないか? じっくり観察してみろ」
 ルークは集中力を高めた。都市の姿がいちだんと鮮明になった。やが
て懐かしい顔が見えてきた。
「いました!」ルークは目を閉じたまま叫んだ。ふいに激痛が襲ってき
た。「窮地に立たされて、とても苦しんでいます」
「おまえは未来を見たのじゃ」ヨーダは説明した。
 未来。つまり現在のところ友人は無事なのだ。未来は変えられないの
だろうか。
「友だちは死ぬのですか?」ルークは師に尋ねた。
 ヨーダは首を振ると肩をすくめた。「予知は難しい。未来は絶えず揺
れ動いておる」
 ルークは目を開けるとあわてて立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
「友だちを見捨てるわけにはゆきません」おそらくジェダイ・マスター
は行くなと言うだろう。
「それならば」とヨーダ。友にとって最善の道を選ぶことだ。おまえが
行けば救えるかもしれぬ。だがいままでの努力は水の泡だ」
 若者は思わず手を止めた。無力感に襲われてその場に座り込む。ほん
とうに修行の成果を無にしたうえ、友人を死なせることにもなるのか?
しかしどうしてこのまま手をこまねいていることができよう?
 R2は主人の絶望を感知すると、彼なりになぐさめようとかたわらに
歩みよった。

p177-
 R2・D2はドーム形の頭部に降りそそぐ雨滴を感知しながら、ぬか
るみのなかをヨーダの小屋めざして進んだ。やがて視覚センサーが窓ご
しにもれる黄金色の光を捉えた。これでうっとうしい雨から解放される。
R2はほっとしながら小屋へ近づいた。
 ところが戸口をくぐり抜けようとして思わぬ障害にぶつかった。どう
角度を変えてみても体が入らないのだ。結局、戸口のサイズに合わない
ことがわかった。
 R2はセンサーが信じられなかった。なかをのぞきこむと、台所に人
影が見えた。湯気を上げる鍋をかきまわしたり、材料を切り刻んだり、
忙しげに動きまわっている。なんと台所にいるのはジェダイ・マスター
ではなく・・・その弟子だった。
 ヨーダは隣の部屋にゆったり腰掛けて、ニコニコしながら若い弟子を
見守っている。ルークは幻でも見たかのように、突然料理の手を止めた。
 ありありと苦悩の色を浮かべている。ヨーダは弟子の表情に気づくと、
3個のシーカー・ボールを放った。輝く球体は音もなく若いジェダイに
近づくと背後から襲いかかった。ルークはすぐさま鍋と蓋とスプーンを
手にして振り返った。
 シーカーはルークめがけて続けざまに光弾を放った。しかし若きジェ
ダイは手並もあざやかに光弾をことごとくはね返した。その一つが流れ
弾となって戸口のR2を襲った。忠実なドロイドは主人の離れ業に見と
れていたので、よけるのが遅れた。R2はすさまじい電撃を受けて引っ
くり返った。
 数々の試練をなんとか切り抜けたルーク・スカイウォーカーは、その
夜遅く、疲れきった体を小屋の外に横たえた。しかし眠りは浅く、悪夢
にうなされた。小型ドロイドは心配そうに寄りそい、めくれあがった毛
布を作業アームでかけなおしてやった。R2がその場を離れかけると、
ルークはまたしても悪夢にうなされはじめた。
 ヨーダは弟子のうめき声を聞きつけると戸口へ急いだ。
 がばっと起き上がったルークは、ぼんやりした頭であたりを見まわす
うちに、家のなかから心配そうに見詰める師の姿に気がついた。「あの
イメージを頭から振り払うことができません」
ルークはヨーダに言った。「災いに巻き込まれて苦しむ友人たち・・・
なんとかしなくては・・・」
「ルーク、行ってはならんぞ」ヨーダは警告した。
「でも、ぼくが行かないとハンとレイアが死んでしまう」
「そうと決まったわけではない」ささやくような声が聞こえて、ベン・
ケノービが姿を現わした。黒ずんだ長衣姿の霊体がルークに告げる。
「彼らの運命はヨーダにも見通せぬ」
 しかし若者は決心をかためた。「二人を救えるのはぼくだけだ!」
「まだ修行がすんでおらん」ベンはさとすように言った。「もっと学ぶ
べきことがあるのだ」
「フォースなら使えます」
「だがコントロールできぬ。おまえは危険な段階にいるのだ、ルーク。
いまがいちばん暗黒面の誘惑を受けやすい」
「そのとおりじゃ」とヨーダ。「オビ=ワンの言うことをよく聞け。巨
木でのしくじりを忘れたか!」
 めきめきとちからをつけてきたルークだが、それを言われると痛かっ
た。「あれからいちだんと修行を積みました。絶対に戻ってきますから、
行かせてください」
「皇帝をあなどってはならぬ」ベン・ケノービは憂慮の色を浮かべた。
「標的はおまえなのだ。友人を苦しめておびきよせる魂胆だ」
「だったらなおのこと行く必要があります」とルーク。
 ベン・ケノービは頑固だった。「かつてヴェイダーを失ったように、
おまえを失いたくないのだ」
「ぼくなら大丈夫です」
「ダース・ヴェイダーと皇帝に太刀打ちできるのは、フォースを味方に
つけた一人前のジェダイ騎士だけだ」ベン・ケノービは語気を強めた。
「いま修行を切り上げて、ヴェイダーと同じように安易な道を選べば、
おまえは悪の手先となりかねない。もしそうなれば、全銀河は憎悪と絶
望の淵に呑み込まれてしまうだろう」
「どうじゃ、わかったか?」ヨーダが口をはさんだ。「すべてはおまえ
にかかっておるのだ」「おまえは最後のジェダイなのだ、ルーク。われ
われに残された唯一の希望なのだ。ここは辛抱してくれ」
「ハンとレイアを犠牲にして?」若者は驚きの声を上げた。
「これからの戦いを考えるなら」ヨーダは熟慮の末、断言した。「・・
・それもやむを得ぬ!」
 ルークは苦悩にさいなまれた。師弟の思いはあまりにも食い違ってい
た。危機に瀕した友人を見捨てることはできない。しかし未熟者のルー
クが駆けつければ、ダース・ヴェイダーと皇帝の思うつぼにはまり、か
えって友人を窮地に陥れ・・・彼自身も暗黒面に呑み込まれてしまうと
いう。
 ハンとレイアが危機にさらされているときに、先のことを恐れてどう
する? 目の前で友が死にかけているときに、わが身の安全を優先させ
てどうする?
 もはや疑問の余地はない、やるべきことは決まった。

p181-
 その翌日、沼の惑星が夕暮れを迎えると、R2・D2はXウイング戦
闘機のソケットに身を沈めた。
 ヨーダは備品ケースの上に立って、ルークの作業を見守った。若者は
ライトに照らし出された機体下部へ荷物を一つづつ積み込んでいった。
「力は貸さぬぞ、ルーク」長衣姿のベン・ケノービが現われて、若者に
声をかけた。「みずから選んだ道だ、おまえは一人でヴェイダーに立ち
向かわねばならん。わしには手出しができぬ」
「承知しています」ルークは穏やかにこたえると、ドロイドを振り返っ
た。「R2、パワー変換器点火」
 すでにパワー制御回路を作動させていたR2は、出発を喜び、うれし
げにピーとこたえた。この惑星はドロイドにとって憂鬱このうえない場
所だった。
「ルーク」ベン・ケノービは親身になって助言を与えた。「フォースは
知覚と防御にのみ使え。武器に用いてはならん。憎しみと怒りに身をま
かせるな。暗黒面に呑み込まれるぞ」
 ルークはなかばうわの空で聞いていた。これからの長旅と前途に待ち
構える難題で頭はいっぱいだった。彼のために命が危ない友をなんとし
ても救い出さねばならない。若者はコックピットに乗り込むとジェダイ・
マスターを見詰めた。
 ヨーダは弟子の身を深く案じていた。「ヴェイダーは手強いぞ」不気
味な警告を与える。「おまえの運命は暗影に包まれておる。学んだこと
を忘れるな。森羅万象に気を配れ、何一つ見過ごしてはならん! それ
がおまえを救うじゃろう」
「わかりました、マスター・ヨーダ」ルークは師に明言した。「絶対に
戻ってきて修行を続けます。約束します!」
 R2がコックピットを閉めると、ルークはエンジンを作動させた。
 ヨーダとオビ=ワン・ケノービはXウイング戦闘機の離陸を見守った。
「だから申したであろう」ヨーダは悲しげにいった。スマートな戦闘機
はぐんぐん高度を上げた。「むこうみずにもほどがある。これで事態は
悪くなるばかりじゃ」
「あの若者は唯一の希望です」ベン・ケノービの声には万感がこもって
いた。
「いや」ケノービの恩師は大きな眼を光らせながら訂正した。「もう一
人おる」
 ヨーダは黄昏の空を見上げた。ルークの戦闘機は星の瞬きにまぎれて、
ほとんど見分けがつかなかった。

p199-
 ルークとR2は人気のない通路を用心しながら進んだ。不思議なこと
に一度も誰何されなかった。着陸許可、身分証明書の提示、訪問目的の
審査・・・どれひとつなかった。クラウド・シティ当局は若者と小型ド
ロイドが何者で、何をしに来たのかまるで関心がないとみえる。どう考
えても異常であり、ルークの不安はいやがうえにもつのった。
 通路の奥から物音が聞こえた。ルークは立ち止まると壁に張りついた。
R2は文明世界へかえってきたことがうれしいらしく、興奮もあらわに
ピーピーと電子音を鳴らした。ルークが静かにしろと目配せすると、小
型ドロイドは弱々しく一声発して黙り込んだ。曲がり角からそっとのぞ
きこむと、こちらへ近づく一団が見えた。先頭に立つのは傷だらけの装
甲服に身を固めた男だ。そのうしろにクラウド・シティの警備兵が続き、
台車に載せた透明ケースを二人がかりで押している。ケースには銅像ら
しきものが入っていた。しんがりにつけていた二名のストームルーパー
がルークに気づいた。
 ストームルーパーはいきなり発砲した。
 ルークは難なく光弾をかわすと、敵の攻撃を封じるべく逆襲に転じた。
若者のブラスターが火を吹く。ストームルーパーは二人そろって胸に穴
を開けられた。
帝国軍兵士が倒れると警備兵たちは台車を押して別の通路に逃げ込んだ。
装甲服の男がルークめがけてブラスターを浴びせかける。光弾は若者を
かすめて壁面を削り、あたり一面に白い破片が飛び散った。視界がもど
ると、敵は一人残らず分厚い金属扉の向こう側に消えていた。
 ルークは背後の物音に気づいて振り返った。レイアとチューバッカ、
3PO、それに長衣姿の見知らぬ男が、ストームルーパーの小隊に取り
囲まれるようにして、別の通路を進んでいた。
 若者は手を振ってプリンセスの注意を引いた。
「レイア!」ルークは大声で呼んだ。
「ルーク、来ちゃだめ!」レイアはおびえた声で叫んだ。「これは罠よ!」
 若者はR2を置き去りにすると、レイアたちのあとを追って小部屋に
駆け込んだ。しかし室内に人影はなかった。R2が狂ったように電子音
を響かせながら追いかけてくる。振り返ったとたん、目の前に巨大な金
属扉が落下してきて大音響をとどろかせた。
 通路側の出入口は遮断された。ルークは別の出口を求めて室内を見ま
わしたが、つぎつぎに扉が閉まってゆく。
 いっぽう九死に一生をえたR2は茫然と立ちつくしていた。あのまま
戸口に足を踏み入れていたら、重たい扉につぶされてスクラップになっ
ていたところだ。小型ドロイドは鼻状の突起を扉に押しつけて、ため息
に似た電子音を発すると、ふらふらとその場を離れた。
 ルークは小部屋に閉じ込められた。シューシュー音を立てる配管、足
もとから立ち上る蒸気。室内を調べ出して間もなく頭上の開口部に気づ
いた。どこへ通じているのか想像もつかない。よく見ようと伸び上がっ
たとたん、足もとの床がゆっくり上昇をはじめた。昇降デッキに乗せら
れた若者は宿敵との対決を覚悟した。
 ルークはブラスターを握り締めたまま、カーボン・フリージング室へ
と運ばれた。あたりは死んだように静まり返っており、配管からもれる
蒸気の音がかすかに聞こえるだけだ。見慣れない機械や化学コンテナの
ならぶ室内。はじめは無人かと思われたが、やがて人の気配を感じ取っ
た。
「ヴェイダー・・・」
 ルークはあたりを見まわしながら、その名をつぶやいた。
「ヴェイダー卿、いるのはわかっている。姿を見せたらどうだ」見えざ
る敵を挑発する。「それともおれが怖いのかい?」
 蒸気がもうもうと立ち昇り、渦を巻きはじめた。高熱の水蒸気をもの
ともせず、頭上の通路にダース・ヴェイダーが姿を現わした。漆黒のケ
ープがひるがえる。
 ルークは黒ずくめの怪人に用心深く近づきながらブラスターをしまっ
た。ジェダイとして暗黒卿に立ち向かう自信が生まれたいま、ブラスタ
ーの必要はない。全身にフォースたみなぎり、一騎討ちの態勢が整った。
若者はゆっくりと階段をのぼりはじめた。
「フォースを味方につけたな、スカイウォーカー」ダース・ヴェイダー
は頭上から話しかけた。「しかしまだ一人前ではあるまい」
 背筋が凍りついた。ルークは一瞬立ち止まると、もう一人の元ジェダ
イ騎士の忠告を思い起こした。「ルーク、フォースは知覚と防御にのみ
使え。攻撃に用いてはならん。憎しみと怒りに身をまかせるな。暗黒面
に呑み込まれるぞ」
 しかしルークは迷いを振り払うと、ライトセーバーのなめらかなグリ
ップを握り締めて、すばやく光刃を振り出した。
 ダース・ヴェイダーもすかさず光剣を構えると、スカイウォーカーの
攻撃を静かに待ち受けた。
 ルークは憎悪をたぎらせながらダース・ヴェイダーに襲いかかった。
しかし暗黒卿はライトセーバーを一閃させると、若者の一撃をこともな
げに払いのけた。
 ルークはふたたび突進した。両者の光刃が噛み合い、激しく火花を散
らす。
 二人はライトセーバーを切り結んだまま、いつまでも睨みあった。

p206-
 ライトセーバーが激しく噛み合った。ルーク・スカイウォーカーとダ
ース・ヴェイダーはカーボン・フリージング室を見下ろす通路で戦い続
けた。
 切り結ぶたびに通路が揺れた。しかしルークはひるむことなく猛攻を
加えて、ダース・ヴェイダーを後退させた。
 シスの暗黒卿はルークの攻撃をかわしながら、穏やかに話しかけた。
「恐怖を克服したか。思いのほか腕を上げたな」
「まだまだこれからだ」若者は自信満々に言い返すと、鋭い突きを入れ
てヴェイダーをおびやかした。
「同感だ」不気味なこたえが返ってきた。
 暗黒卿は流れるような動きを見せて、ルークのライトセーバーをはね
飛ばした。若者はエネルギー刃で足を薙ぎ払われそうになり、すかさず
飛びのいた。ところが勢いあまってよろめき、そのまま階段を転げ落ち
た。
 ルークは大の字に倒れたまま黒ずくめの相手を見上げた。暗黒卿は漆
黒のケープをコウモリの翼のごとくひろげながら舞い下りてきた。
 若者は相手から目を離すことなく、一方へ転がった。ダース・ヴェイ
ダーはルークのかたわらにふわりと着地した。
「スカイウォーカー、おまえの未来はわたしの手のうちにある」ヴェイ
ダーはうずくまった若者を見下ろした。「暗黒面に身をゆだねるのだ。
オビ=ワンも反対すまい」
「ふざけるな!」ルークは邪悪な誘いをはねつけた。
「オビ=ワンの教えには偏りがある」ヴェイダーは続けた。「わたしが
修行の足らぬところを補ってやろう」
 ダース・ヴェイダーの言い分にはひどく説得力があり、つい引き込ま
れそうになる。
 耳を貸すな。ルークは自分自身に言い聞かせた。甘言を弄しておれを
惑わし、暗黒面へ誘い込む魂胆だろう。ベンの言ったとおりだ!
 ルークはシスの暗黒卿から逃げるようにじりじりとあとずさった。若
者の背後でピットの覆いが音もなく開き、受け入れ準備を整えた。
「死んだほうがましだ」ルークは言い放った。
「その必要はない」暗黒卿はいきなり突きを入れた。若者はバランスを
くずして、ぽっかり口を開けたピットに転がり落ちた。
 ダース・ヴェイダーはフリージング・ピットに背を向けると、ライト
セーバーのスイッチを切った。「口ほどにもない。皇帝ははおまえを過
大評価していたようだ」
 どろどろに溶けた合金がピットに注ぎ込まれる。その瞬間、ヴェイダ
ーの背中をかすめるようにして、黒い人影が飛び上がった。
「勝負はこれからだ」ルークは穏やかに言い返した。
 シスの暗黒卿はくるりと振り返った。カーボナイトを浴びながらしゃ
べれるはずがない! ダース・ヴェイダーはあたりを見まわすと、天井
に視線を向けた。
 ルークは5メートル以上も跳躍して天井から垂れ下がるホースにつか
まっていた。
「みごとだ」ヴェイダーは褒め言葉を口にした。「それだけ敏捷なら申
し分ない」
 ルークは蒸気を上げるピットの反対側に飛び降りた。床に落ちている
ライトセーバーへ手を伸ばす。グリップが手のなかへ吸いよせられると
たちまち光刃を振り出した。「ヴェンのもとでかなり修行を積んだとみ
えて、恐怖をみごとに抑え込んでおる。さあ怒りを解き放て。わしはお
まえの一族を皆殺しにした。復讐するならいまだぞ」
 しかしルークはかなり用心深くなっていた。恐怖を克服したいま、怒
りに我を忘れなければ、相手の口車に乗ることもない。
 修行を思い出せ。ルークは自分自身に言い聞かせた。ヨーダの教えを
忘れるな! 憎しみと怒りを振り払い、フォースに身をゆだねるのだ!
 マイナスの感情を抑え込んだルークは、相手の挑発を無視して攻勢に
転じた。ダース・ヴェイダーは守勢にまわり、ずるずるとあとずさった。
「憎悪の力を借りればわたしを打ち倒すことができるぞ」ヴェイダーは
しきりにそそのかす。
「憎しみを利用するのだ」
ルークは宿敵の恐ろしさをあらためて思い知った。ささやくように自分
に言い聞かせる。「暗黒面の奴隷になってたまるか」若者は用心しなが
ら相手を攻め立てた。
 ダース・ヴェイダーはルークに押し込まれるまま後退を続けた。若者
は強烈な一撃を浴びせかけた。暗黒卿はすかさず受け止めはしたものの、
足を踏みはずして配管の縁から転落した。
 ルークは疲労のあまりその場にへたりこみそうになった。力を奮い起
こして配管の縁に歩みよる。用心深く下をのぞきこんだが、ダース・ヴ
ェイダーの姿はなかった。ライトセーバーのスイッチを切るとそのまま
ヴェルトに引っ掛けて、下におりた。
 そこは中央炉を見下ろす制御室になっていた。この炉から全市に電力
が供給されるのだ。室内を見まわすと大きな窓があり、その前にダース
・ヴェイダーが彫像のごとく立っていた。
 ルークはゆっくり窓辺に歩みよると、ふたたび光刃を振り出した。
 しかしダース・ヴェイダーはライトセーバーに手を触れず、若者が近
づいても防御のそぶりすら見せなかった。暗黒卿の武器は、誘いかける
ようなその声だった。「今だ」若いジェダイを挑発する。「わたしを殺
せ」
 ルークは相手の真意をはかりかねて二の足を踏んだ。
「復讐を果たすことによってのみ、おまえは救われる・・・」
 ルークはその場に立ちつくした。ヴェイダーの言うとおりフォースを
復讐の道具に使うベきか? それともここは矛先をおさめて、もっと修
行を積んでから再度戦いを挑むべきか?
 馬鹿な。またとないチャンスではないか。悪の権化を打ち倒すときは
今しかない。迷っていてどうする・・・。
 こんな機会は二度とめぐってこないかもしれない!
 ルークはライトセーバーを両手でしっかり握り締めると、古代の長剣
のごとく高々と振りかぶった。
 しかし光刃を振るう間もなく、壁に据えつけてある機械の一部が背後
から飛んできた。ルークは振り向きざま大型部品をまっぷたつに切って
落とした。
 若者はフォースを使って身を守った。続けて飛んできた機械部品は見
えないシールドにはね返された。息つく間もなく大型パイプが落下して
くる。大きな物体はなんとか振り払ったものの、今度は工具やボルトが
四方八方から飛んできた。引きちぎられた配線が火花を散らしながら襲
いかかる。
 若者は全力をふりしぼって猛攻をしのいだが、怪我はまぬがれなかっ
た。
 大型機械部品がルークをかすめて大窓を叩き割ったとたん、猛烈な風
が吹き込んできた。死神さながらのうなりを上げながら、すさまじい風
が吹き荒れてルークを打ちのめす。
 部屋のちょうど中央に、悠然と立つダース・ヴェイダーの姿があった。
「おまえの負けだ」シスの暗黒卿は満足げに告げた。「刃向かっても無
駄だ。わたしの言うことを聞かねば、オビ=ワンの仲間入りをすること
になるぞ!」
 そうして話しているあいだにも、重たい機械が宙を飛んで襲いかかっ
てきて、若いジェダイを窓辺へ突き飛ばした。ルークはそのまま突風に
あおられて割れた窓から外へ転がり落ちたが、とっさに手すりをつかみ、
どうにか転落死だけはまぬがれた。
 風がすこしおさまり視界がはっきりすると、リアクター・シャフトの
整備塔にぶら下がっていることがわかった。シャフトの深さは測り知れ
ない。思わずめまいを覚えた。目をつぶって気持ちを落ち着かせる。必
死になってしがみついているポッド状のリアクターにくらべれば、ルー
クなど虫けらほどの大きさにすぎない。しかしそのリアクターにしたと
ころで、無数の光が瞬く環状シャフトの本体にくらべれば、内壁を彩る
光点ほどの大きさしかないのだ。
 ルークは片手でぶら下がりながら、ライトセーバーをヴェルトに吊る
した。ようやく両手で手すりをつかみ、ガントリーの上によじのぼる。
すばやく立ち上がると、こちらに向かって歩いてくるダース・ヴェイダ
ーの姿が目に入った。
 ちょうどそのとき、スピーカーの声がシャフトにこだました。「逃亡
者は着陸床327番に向かっている。離陸を阻止せよ。全軍、非常警戒
態勢を取れ」
 ダース・ヴェイダーはルークに歩みよりながら傲然と言い放った。
「おまえはもちろんだが、仲間も逃げられはせぬ」
 ヴェイダーがさらに一歩近づくと、ルークはライトセーバーを構え直
した。
「おまえは負けたのだ」暗黒卿はきっぱりと断言した。「逆らっても無
駄だ」
 しかしルークは抵抗をやめようとしなかった。強烈な一撃を叩きつけ
る。光刃はうなりを上げて装甲服に食い込み、肉を焦がした。さすがの
ヴェイダーもよろめいた。すこしは苦痛を感じているのだろうか。しか
しそれもほんの一瞬だった。暗黒卿はふたたび間合いを詰めた。
 ダース・ヴェイダーはさらに一歩近づくと警告を発した。「おまえに
はオビ=ワンのような最後は迎えてほしくない」
 息遣いが激しくなり、額から冷たい汗がしたたり落ちる。ルークはベ
ンの名を耳にすると、ふたたび気力をふるい起こした。
「落ち着け・・・」
若者は自分に言い聞かせた。「冷静になれ」
 しかも黒ずくめの宿敵は容赦なく迫る。若きジェダイの命は傷つきや
すい魂もろとも風前の灯かと思われた。

p214-
 うなりを上げてリアクター・シャフトを吹き抜ける風が、ぶつかり合
うライトセーバーの音をかき消した。
 ルークは巨大な計器パネルの下に逃げ込んだ。しかしダース・ヴェイ
ダーはすぐさま追いつくと、パネルの支柱を勢いよく薙ぎ払った。計器
パネルはたちまち突風にあおられて上方へ舞い上げられた。
 相手の気をそらすことがヴェイダーの狙いだった。ルークは思わず計
器パネルに目をやった。
暗黒卿はその一瞬の隙をついて若者の右手を切断した。ルークの手はラ
イトセーバーをつかんだまま吹き飛んだ。
 激痛が走った。肉の焦げる臭いが鼻をつく。痛みをすこしでもやわら
げようと脇の下に右腕をはさみこむ。ルークは黒ずくめの宿敵に圧倒さ
れるままじりじりとあとずさり、とうとうガントリーの端まで追い詰め
られた。
 不気味なことに風がぱったりやんだ。ルークは逃げ場を失った。
「もはや逃げられぬぞ」シスの暗黒卿は若者の眼前に死の天使のごとく
立ちはだかった。「これ以上手を焼かせるな。おまえのフォースは強い。
暗黒面のパワーを身につけろ。二人で力を合わせれば皇帝をしのぐこと
ができよう。わしの手で一人前にしてやる。そろって銀河の支配者にな
るのだ」
 ルークはヴェイダーの誘惑に屈しなかった。「断わる!」
「暗黒面のパワーを知れば気が変わる」ダース・ヴェイダーはあきらめ
なかった。「おまえの父がどうなったか、オビ=ワンは話さなかったで
あろう?」
 父親に言及されてルークは憤激した。「話してもらった! 貴様に殺
されたんだ」
「それは違う」ヴェイダーは穏やかにこたえた。「わしがおまえの父親
なのだ」
 ルークは唖然として黒ずくめの相手を見詰めた。何を言い出すんだ。
とても信じられない。
二人の戦士・・・父親と息子・・・はじっと見詰め合った。
「そんなバカな! 嘘に決まっている・・・」ルークは新事実を認めよ
うとしなかった。「ありえない」
「偽りかどうか」ダース・ヴェイダーはまるでヨーダのような口をきい
た。「自分の胸に聞いてみろ」
 暗黒卿はライトセーバーのスイッチを切ると手を差し伸べた。
 ルークはぞっとして身を震わせた。「嘘だ! 嘘だ!」
 ダース・ヴェイダーは説得を続けた。「ルーク、おまえは皇帝を打ち
倒すことができる。皇帝もそれを予見しておる。宿命には逆らえぬぞ。
父と子で力を合わせて銀河に君臨するのだ。それしかおまえの生きる道
はない」
 ルークの心は揺れ動いた。さまざまな思いが脳裏をよぎる。ヴェイダ
ーの言うことは本当なのか? ヨーダとベンの教えは偽りだったのか?
悪を打ち倒すべく続けてきた修行は無意味だったのか?
 ヴェイダーの言うことなど信じたくなかった。嘘をついているのはヴェ
イダーのほうだ・・・そう思いたかった。しかしルークの直感は逆のこ
とを告げていた。だがダース・ヴェイダーが真実を語っているとすれば、
どうしてベン・ケノービは嘘をついたのだろう? どうしてだ? 暗黒
卿が招きよせた風のうなりを圧して、内なる絶叫が耳もとに響いた。
 もはやこたえはどうでもよかった。
 実の父。
 ベンとヨーダから教えられたとおり平静を取り戻すと、ルーク・スカ
イウォーカーは人生最後となるかもしれない決断を下した。「断る」若
者はそう叫ぶなり虚空へ踏み出した。底知れぬ深みはまるで異次元空間
を思わせた。
 ダース・ヴェイダーはガントリーの縁から、転げ落ちてゆくルークを
見守った。吹き上げる烈風が漆黒のケープをはためかせる。
 傷ついたジェダイはまっ逆さまに落下しながら、転落死を食い止める
べく懸命の努力を続けた。
 ルークの体はシャフト側面の排気孔に吸い込まれた。若者の姿が消え
ると、ダース・ヴェイダーはくるりと背を向けて、その場をあとにした。